生成AIブームの火付け役となった ChatGPT が2022年11月30日に一般公開されてから、ブログ執筆時点(2025年6月)で約2年半が経過しました。また、2025年1月16日より、Google Workspace には生成AI機能「Gemini」が標準搭載されました。この流れを受けて、「Microsoft 365 ではどうなのか?」というお問い合わせをいただくことが増えてきたため、Copilotの現状をまとめたいと思います。
本記事の対象読者
この記事は、以下の読者を対象にしています。
- Microsoft 365 を利用している会社のAI担当の方
- Microsoft 365 を利用している会社のDX担当の方
- Microsoft 365 の管理者
Microsoft 365 Copilot のライセンスについて整理をする
Copilot という名称が付くサービスは非常に多く、マイクロソフトのプロダクト担当の方から2024年8月の時点で180以上もあるという話を聞きました。そこで今回は「Microsoft 365」 の Copilot Chat に限定し、混同しやすいポイントをまとめていきます。
Microsoft 365 Copilot の Chat 機能は、これまでに非常に多くの名称変更があり、その経緯を正確に把握している方は少数だと思われます。実際にインターネット上には古い情報や誤った記載も多く、混乱を招くことが少なくありません。そこで今回は、このテーマについてシンプルに3つ(+1)の観点からまとめていきます。
①Microsoft Copilot
(旧名称:Bing Chat)
→無償利用可能な Copilot (Microsoft 365 などの有償ライセンスが不要)
Edgeブラウザ右上のアイコンから起動したり、Webサイト上(https://copilot.microsoft.com/ (Microsoft 365 Copilot の ライセンス所有時は「Personal」を選択時)で利用できる個人向けチャットボットサービスのことです。
②Microsoft 365 Copilot Chat
(旧名称:Microsoft Copilot/Bing Chat Enterprise)
→Microsoft 365 ライセンスがある場合に使えるCopilot(Microsoft 365 Copilot のアドオンライセンス無)
Microsoft 365 Copilot のライセンスがなくても、自社の Microsoft 365 環境の中で利用ができる法人向けチャットボットサービスのことです。
③Microsoft 365 Copilot Business Chat / Business Chat
(旧名称:Microsoft Copilot/Microsoft Copilot Chat/Business Chat)
→Microsoft 365 Copilot のアドオンライセンス有
Microsoft 365 に加え、Microsoft 365 Copilot のライセンスがアドオンされている場合に利用ができる法人向けの生成AIサービスのことです。
※②および③は主にOneDrive, Exchange Online, Teamsなどが含まれているライセンスが必要ですが、どのライセンスで利用できるかわからない場合はお気軽にご相談ください。
その他:Microsoft Copilot Pro
→(個人向け Microsoft 365)Microsoft Copilot Pro のアドオンライセンス有
Microsoft 365 Personal / Microsoft 365 Family といった個人向けの Microsoft 365 のライセンスを利用の場合に購入できる 「Copilot」のライセンスとなります。今回は企業での利用を想定していますので以降では触れません。※個人向けはMicrosoft アカウント(MSA)、組織向けでは Microsoft Entra で管理がされるという違いがあります。組織で管理する際は一般的に Microsoft Entra で管理されるMicrosoft 365 を利用するため本ブログでは割愛させていただきます。
ここで非常に厄介なのは、以前は有償サービスに使われていた名称が、現在は無償サービスに転用されている点です。そのため、どれを指しているのか分からなくなることが多いようです。
※CSPの資料やMicrosoft 公式資料など複数で確認しておりますが、名称について認識齟齬がありましたら是非ご指摘ください。
個人情報や機密情報の漏洩リスク
おそらく情シスの方やバックオフィスの方はこの観点を一番に気にする観点かと思います。
具体的には、入力したプロンプトに個人情報や機密情報(顧客情報や社内資料など)が入っていて外部に漏洩するという観点よりも、生成AIの学習データとして利用されるリスクを気にすることが多いようです。
こちらですが、イメージが湧きにくい方もいると思うので、実例を元にご説明します。例えば、昔から翻訳の分野ではAIが使われてきましたが、長めの文章を翻訳した際に「〇〇株式会社は~」という全く関係ない会社が主語として出力される結果になってしまうことがありました。これは他の利用者の方が「〇〇株式会社」という表現を何度も修正した結果、それをAIが学習してしまったのだと思われます。これは必ずしも情報漏洩に繋がるわけではありませんが、ブランド毀損などのリスクにも結びついてしまう可能性があります。
厳密にいえばクローズドな環境ではない翻訳システムなどにNDAなどの情報を入れること自体が情報漏洩と考えるため、社外のシステムを使う場合に情報がどう取り扱われるかという観点はAI以前から考慮されていました。こういった観点を整備されていない会社は「AIの利用」という課題が現れたことにより情報の取り扱いを考える時期に来たともいえると思います。
①「Microsoft Copilot」の場合
→入力したデータはトレーニングに利用される可能性があります。
製品の改善と開発の一環として、お客様のデータを使用して AI モデルの開発とトレーニングを行う場合があります。
②「Microsoft 365 Copilot Chat」/③「Microsoft 365 Copilot Business Chat」の場合
→入力したデータはトレーニングに利用される可能性がありません。
Copilot チャットのプロンプトと応答は、基礎モデルのトレーニングに使用されますか?いいえ。プロンプトと応答は、エンタープライズ データ保護の下で 基盤モデルをトレーニングするために使用されません 。
つまりは Microsoft 365 のライセンスを所有している場合、Microsoft 365 のサービスの中で利用する場合は観点の問題がないということです。
また、「②や③のライセンスを持っている場合に、①である「Microsoft Copilot」を使った際はどうなる?」といったパターンを聞かれることもありますが、組織のEntra アカウントでサインインしているユーザーの場合は「エンタープライズ データ保護」の対象になりますのでご安心ください。
データ参照範囲
Teamsでの自動翻訳や議事録のまとめなどをニュースで見た方から「Copilotでどこまでできるの?」という質問をいただきますので、この観点でもまとめてみます。
①「Microsoft Copilot」の場合
基本的には、Web上の情報とアップロードしたファイルがインプットとなります。
②「Microsoft 365 Copilot Chat」の場合
①に加え、組織のデータにアクセスできる「エージェント」を利用することで、社内データを参照するように追加することも可能です。エージェントの例としては、SharePoint や Graph Connector などがあります。こちらは「自動的に」社内データを参照するわけではありません。管理者やユーザーがエージェントを設定した場合に限り、参照が可能です。
③「Microsoft 365 Copilot Business Chat」の場合
②に加えて、「自動的に」社内データを参照します。なお、ユーザーの権限によってアクセスできないファイルや情報は参照されませんが、権限設定のミスなどで本来公開すべきでない資料が閲覧可能になっている場合、その内容がAIの回答に利用されるリスクがあるため注意が必要です。
Word、Excel、PowerPoint などの Officeアプリ内で Copilot を利用する際には、社内データの参照が必要となるため、③の「Microsoft 365 Copilot」のアドオンが必要です。
Google Workspaceではアドオンライセンスなしで「Gemini」を利用できることもあり、「Gemini」に近い機能を持つ③「Microsoft 365 Copilot ライセンス相当」を標準で利用できると誤解するケースが多いのでご注意ください。
3つの Copilot の違いのまとめ
今回は「個人情報や機密情報の漏洩リスク」という観点で「エンタープライズデータ保護」と「データ参照範囲」を解説しましたが、その他も含めよく聞かれる観点をまとめると下記のようになります。
項目 | Microsoft Copilot | Microsoft 365 Copilot Chat | Microsoft 365 Copilot Business Chat(Copilot Chat含む) |
---|---|---|---|
利用対象 | 一般ユーザー/Microsoft 365ユーザー | Microsoft 365 のライセンスを付与したユーザー(一部例外あり) | Microsoft 365 Copilotのライセンスを付与したユーザー |
料金 | 無料 | 無料(※Microsoft 365 のライセンスに標準で含まれ、個別購入不可) | 有料 |
主な提供形態 | Microsoft 365アプリ内/Web | Web/Microsoft 365ポータル/Teams等 | Microsoft 365アプリ内(Word, Excel, Teams等) |
アプリ連携 | 一部(Outlook, Teams, Word等) | なし(チャットUI中心、ファイルアップロード可) | Word, Excel, PowerPoint, Outlook, Teams, OneNote, OneDrive, Forms等 |
データ参照範囲 | アップロードしたファイルやWeb情報 | アップロードファイル+Web ※エージェント利用などで社内情報を利用するように追加することも可能 | Microsoft Graph経由でユーザーがアクセス可能な全社内の情報(SharePoint, OneDrive, Teams, メール, カレンダー等) |
機能例 | メール要約、文書ドラフト、データ分析 | 会話履歴管理、ファイル要約、情報検索、レポート作成 | アプリ内での文書生成、データ分析、会議要約、プレゼン作成、AIアシスタント機能全般 |
エンタープライズデータ保護 | なし | あり | あり |
IT管理者向け管理機能 | 一部 | あり(履歴管理・権限制御など) | あり(高度な管理・監査・制御) |
会話履歴の保持・参照 | なし/限定的 | あり | あり |
画像生成・コード実行 | 一部(Designer等) | あり | あり |
まとめ
今回は、EdgeやWebサイトから利用できる「Microsoft Copilot」、Microsoft 365ユーザーが利用できる「Microsoft 365 Copilot Chat」、そして有償ライセンスの「Microsoft 365 Copilot Business Chat」についてまとめました。
生成AIは今後ますます身近な存在となっていくと考えられます。単に「使わせない」という発想ではなく、それぞれの特徴や違いをご理解いただいた上で、ぜひ業務での活用をご検討いただければと思います。
ZUNDA は、Microsoft 365 の導入支援・運用サポートに豊富な経験を持つ、Microsoft ソリューションパートナーです。Microsoft 365 間の運用のお困りごとなどは、ぜひ当社までご相談ください。お客様の要件を詳しくヒアリングし、おすすめの支援プランをご提案します。
まずはお気軽にお問い合わせください。 お客様の Microsoft 365 の利用を全力でサポートいたします。
※「表の崩れ」と「Microsoft 365 Copilot Chat」であるべき部分が「Microsoft Copilot Chat」となっていた部分を修正しております。
※「表の崩れ」と「Microsoft 365 Copilot Chat」であるべき部分が「Microsoft Copilot Chat」となっていた部分を修正しております。