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ZUNDA株式会社

NIST SP 800-63B Rev 4を考える: 長いパスワードを、安全に運用するために

2025年7月、NISTはデジタルアイデンティティガイドラインの最新版である「NIST SP 800-63 Revision 4」を正式公開しました。
そのうち「SP 800-63B-4」は、認証と認証器(Authenticator)の管理について定めたガイドラインです。パスワード、OTP、セキュリティキー、パスキーなどとその組み合わせについて、認証保証レベル(AAL)に応じた要求事項を整理しています。
近年、NIST SP 800-63B-4 が公表され、「複雑なパスワードは不要になった」「パスフレーズが推奨されるようになった」といった点が注目されることが増えました。
わたしたちZUNDAは、この一連の要件は、「現実的に運用できるパスワード」を重視する方向へ舵を切ったものだと捉えています。
この記事では、NIST SP 800-63B-4の内容を読み解き、企業の認証情報管理について考えていきます。

1. NISTは「複雑なパスワードを作れ」とはもう言っていない

従来、多くの組織では、次のようなパスワードポリシーが採用されてきました。
  • 大文字、小文字、数字、記号をすべて含める
  • 一定期間ごとに変更する
  • コピー&ペーストを禁止する
しかし、最新版のNIST SP 800-63B-4では、パスワードを受け付けるサービス提供者に対し、主に次のような要件を示しています。

パスワードの長さ

  • パスワードのみで認証する場合は最低15文字
  • MFAの一要素として利用する場合は最低8文字
  • 少なくとも64文字まで設定可能とする

パスワードの設定・変更

  • 文字種の組み合わせを強制しない
  • 理由のない定期変更を要求しない
  • 漏えい済み・一般的・推測されやすいパスワードを拒否する

入力・認証処理

  • オンライン試行回数を制限する
  • パスワードマネージャーや自動入力を妨げない
  • パスワードの貼り付けを許可する
ここから読み取れるのは、NISTは「複雑なパスワード」よりも、「長く、現実的に運用できるパスワード」を重視する方向へ舵を切っているということだと、わたしたちZUNDAは考えています。
そこで、人間が覚える必要があるのであれば、単語や文章などを組み合わせた、長さを確保しながら記憶しやすくできる、いわゆる、パスフレーズも有効です。
しかし、企業の認証を考えると、話はそれだけでは終わりません。
パスワードそのものをどう作るかだけではなく、サービスごとに異なる認証情報を、どう管理し、どう安全に運用するかも考える必要があります。

2. 企業では、多数のパスワードを安全に運用しなければならない

企業では、一人の利用者が数十のシステムやSaaSを利用することも珍しくありません。
一人の利用者だけでも、サービスごとに異なるパスワードを管理し続けるのは大変です。十分な長さを確保し、漏えい時に個別に変更するとなれば、その負担はさらに大きくなります。
また、企業では、共有アカウントや管理者アカウントの管理、入社・異動・退職に伴う権限変更、委託先へのアクセス権の付与や回収など、組織として考えなければならない運用上の課題も数多くあります。
人間の記憶だけに頼った運用は現実的ではありません。同じパスワードを使い回したり、サービス名や年号だけを変えて使い分けたり、メモや表計算へ保存したりと、運用を続けるための「工夫」が、結果としてセキュリティリスクになってしまいます。
長いパスワードやパスフレーズは、一つのパスワードを作成する考え方です。しかし、企業が直面する「多数の認証情報をどう安全に管理し、運用するか」という課題は、それとは別に考える必要があります。

3. なぜNISTは自動入力を妨げてはならないとするのか

NIST SP 800-63B-4は、サービス提供者に対して、パスワードマネージャーと自動入力を許可することを必須要件としています。
Verifiers SHALL allow the use of password managers and autofill functionality.
「サービス提供者は、利用者がパスワードマネージャーや自動入力機能を利用できるようにしなければなりません。」
また、自動入力が利用できない場面に備えて、貼り付けも許可すべきとしています。
さらに、
Password managers have been shown to increase the likelihood that subscribers will choose stronger passwords, particularly if the password managers include password generators.
「パスワードマネージャーは、利用者がより強力なパスワードを選択する可能性を高めることが示されています。特に、パスワード生成機能を備えている場合、その傾向はより顕著です。」
と説明しています。
ここで私たちが重要だと考えているのは、NISTが「長いパスワードを使いましょう」「推測されにくくしましょう」で終わらせていない点です。十分に長く、サービスごとに異なるパスワードを利用するのであれば、それを現実的に運用できる仕組みも必要になるはずです。
わたしたちは、この一連の要件は「長いパスワードを設定すること」だけでなく、「それを現実的に運用できること」まで含めて考えられていると理解しています。

4. パスワードマネージャーが解決できること

わたしたちZUNDAは、パスワードマネージャーを「パスワードを覚えるためのツール」ではなく、「組織として認証情報を安全に運用するための基盤」の一つだと考えています。
そのため、多くの法人向け製品には、単なる保存機能だけでなく、運用を支えるさまざまな機能が備わっています。代表的なものを見てみましょう。

サービスごとに強いパスワードを生成する

サービスごとに、十分な長さを持つランダムなパスワードを生成できます。利用者自身が文字列を考える必要がないため、推測されやすいパスワードや使い回しを減らせます。

認証情報を安全に保存する

サービスごとに異なる認証情報を一元的に保管できます。長いパスワードを記憶する必要がなくなり、サービスごとの使い分けもしやすくなります。

自動入力する

保存した認証情報を自動入力できます。長くランダムなパスワードでも、利用者が毎回手入力する必要はありません。また、URLに応じたパスワードを自動入力するので、フィッシング詐欺に一定の効果があります。

組織で共有・管理する

法人向けのパスワードマネージャーでは、共有アカウントや管理者アカウントを安全に共有できます。
また、製品によりますが、入社・異動・退職に合わせてアクセス権を管理したり、弱いパスワードや使い回しを検出する機能も備えています。
さらに、これも製品によりますが、パスワードと併せてMFAの認証器やパスキーもセットで共有できる機能を備えていることも特長と言えます。

漏えいした認証情報を検知する

製品によっては、保存しているパスワードが既知の情報漏えいに含まれていないかを確認し、危険な認証情報を利用者や管理者へ通知できます。
もちろん、パスワードマネージャーだけで認証の課題がすべて解決するわけではありません。しかし、パスワードを利用せざるを得ないサービスについては、人間の記憶だけに頼らず、安全に運用するための基盤として有効な選択肢の一つです。

4. 覚える秘密を減らす認証設計へ

そもそも、企業が目指すべきなのは、社員が覚え、管理しなければならない秘密情報を減らすことです。
例えば、
  • SSOやIdP統合でパスワードそのものを減らす
  • パスキーへ移行する
  • MFAを利用する
  • 残るパスワードをパスワードマネージャーで管理する
  • 条件付きのアクセス制御や端末管理を組み合わせる
といった方法があります。
SSOやパスキーは、パスワードそのものを減らします。
パスワードマネージャーは、残るパスワードを安全に運用します。
パスフレーズは、人が覚えるパスワードを改善します。
どれか一つが正解ではありません。
「どのようなパスワードを設定するか」という話は、すでに終わっています。その先の「認証情報の管理・運用をどうするか」が、現在のサイバーセキュリティにおける命題の一つになっています。
企業が守るべきなのは、パスワードそのものではありません。
利用するサービス、端末の管理状態、認証方式、アクセス制御、そして日々の運用。それぞれを組み合わせながら、認証基盤全体を設計することが重要です。

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